市場(バザール)にて
             〜 砂漠の王と氷の后より
 


       




 それはそれは青くて眸に染み入るほどの発色をした、すこぶるつきに機嫌のいい空が広がる、此処は王城のある街の、広小路の一角だ。王宮とも呼ばれる覇王の住まい、それは荘厳な石作りの宮殿は、当初は戦さのための大本営もかねた、一種の山城だったそうで。そんなためか、後背には切り立った断崖があったのを、そのまま防御の要衝としており。今では、後宮におわす水蜜桃のような妃らを守るための、大濠の代用としておいで。そんな構造から、奥向きは到底覗くことも適わぬ作り。よって、嫁いでからはそこにお住まいの、“宮様”と呼ばれる妃たちの麗しのお姿も、一般の民らにはそうそう拝むことなぞ出来ぬまま。

  ……の筈だのに

 「ほれ、そこのお兄さん。
  覇王が第三の妃様ご用達、紅のヒジャブはいかがかな。」

 「なんの、第二妃様のお気に入り、
  黄金五連のブレスレットだ、恋人さんへいかがかな。」

 どういう情報網があるのやら。時々、伝染病じみた勢いで、後宮では今これが流行中という触れ込みのあれこれが、市場へも頻繁に出回るそうであり。深紅の絹はいかにも上等そうな品だったし、黄味の濃い金の腕輪は、しゃらしゃらと涼しげな音を立てるなかなかの逸品ではあったが。果たして、本当に触れ込み通りの品かどうか。

 「どこまで真実なのかは、確かめようがないからな。」
 「そういや そうですわね。」

 かつては、大きな戦に出向いた王侯や将軍を、その凱旋を祝うべく、市民らが整然と出迎えるためにと築かれた広場も。安寧な今となっては、買い物客やら旅人やらが行き交い、そんな人々を呼び止めんとする売り声で埋まった雑踏にすぎず。ところどころに出来ている人だかりは、その身ひとつを商品に、卓抜した技や才を披露している見世物を、どよどよと沸きつつ見物する人垣だったり。はたまた、広場からそれぞれの街路へ連なる道すがら、大路から市場がはみ出して来ているものへ、早くも関心を惹かれて立ち止まる人々が生み出す、雑踏の一端だったりもし。

 「二人とも、人波に攫われぬよう。」
 「ええ。」
 「はい。」

 今日は特に祝い事や記念の日でもなし、この国ならではな祭りの前後でもないはずだけれど、それでも大層な人出であり。土地の者も旅人も、判別が難しいほど入り交じるそんな中、こちらもまた、ようよう繰り出した面々がある。うら若き青年と、その連れらしきご婦人二人という顔触れで、近隣の属領からででも出て来たばかりか、婦人二人がヒジャブやベールでお顔を隠しているのはともかく、青年もまた頭に布を巻きつけ、余った裾を首裏まで垂らしており。旅人のそれらしき、砂防の工夫を取り込んだ装束のままという、微妙に物慣れない様子ながら、その割に…ご婦人たちの装いの陰に、裕福そうな匂いもちらり。耳元や襟足に随分と豪奢な装飾品をまとっておいでか、ご婦人たちの髪をそれぞれに覆う、神聖な薄絹越しでもそれと判るほどの煌きは、通りすがりの店々をまかなう目利きたちの、注意を惹いてやまない模様。

 「若様、若様。お綺麗な奥様へ、かづきを飾る宝石はいかがで?」
 「なんの。長旅でお疲れでしょう、瑞々しい果物はいかがかな?」

 広場のあちこちにも出店は幾つかあって。棍棒のような柱に帆布の四隅をくくって張って天幕とした、いかにも簡素な出来ながら、それらに陣取る店主たちの側は、商い慣れした凄腕も多いようで。北領からは毛皮や極寒にも耐える獣の油脂から作った秘薬、堅い樹を根気よく細工したサジに鉢、大マスの塩漬けなどが運ばれており。片やの南からは、竜舌蘭の繊維から作ったとされている丈夫な織物や、軟石や貴鉱石の見事な装飾品。珍しい果物や、涼しげな色合いのぎあまんの瓶に入った蒸留酒などなどが、これでもかとの彩りも豊かに並べられており。それらをかざし、これはと目をつけた客には、積極的に話しかけ、何が何でもこっちを向かせようと、それぞれにそれは躍起になる始末。

 「ウチはご城下で一番に流行ってるチャームの店だよ。
  彫金の細工師には、王宮お抱えの名人もいるんだ。」

 肉だの青物だのという日用品を扱う店よりも、布や宝石、金細工に香水、煙草に酒など、嗜好品や土産物を広げた店が多いのも。ここがご城下で一番広い市場であり、旅人の行き来が多いからだろう。ちょっぴりくたびれた装束ながら、中身は案外とお若い顔触れか。すべらかな頬をした濃色のマント姿の青年を先杖に、辺りをわくわくと見回すご婦人二人を導きつつ、市場の雑踏をゆく一行も。

 「綺麗な更紗が揃っておりますのね。」
 「向こうの店には軟石のチャームも。」

 びろうどを敷かれた上へと広げられた色鮮やかな宝珠の粒や、自然界にはあり得ないほど原色に染め上げられた、何の鳥のだか羽根を巻きつけた革の紐やらリボンやらへ、何て可愛い、ええ可愛いと連発したかと思えば。精巧なカットを施した、ぎあまんや水晶石やらへ、光を分散させる虹模様が何とも綺麗と、ついつい見ほれて立ち止まり。危うく……漬物石ほどもありそうなガラス石を買わされそうになるわ。

 「ええ〜、お買い上げにならないんで?」
 「ごめんなさいね。」

 いかにも残念そうに食い下がる店主へ、おっとりと応じた濃青の更紗をまとった婦人が色香たっぷりに青い双眸をたわめつつ、やんわりとしたお断りをし、
「何せ、わたしたち、旅の途中だから。」
 もう一人の婦人が、微妙な片言で言い足しつつ“ダメダメ”とかぶりを振れば、気のいい主人は残念だなぁとしつつも、
「じゃあ、またの機会を楽しみに。」
 案外素直に引き下がる。ではねと愛想よく去ってく一行を、こっちも穏やかに見送る亭主へ、
「何やってんだ、あんた。」
 あんなお上りさん、格好のカモじゃないかと。悪い人じゃあないのだろうが、商いは戦いというのが染み付いておいでの奥方が、不甲斐ない夫の尻を叩きにかかったものの、
「馬鹿 言ってんじゃねぇ。」
 愛想笑いを素早く引っ込め、詰りに来た奥方を店の裏手へ引っ張り込んで、

 「間近にいなかったんじゃあ、気がつかなかったのも無理ねぇがな。
  連れの若い兄さんが、そりゃあおっかない眸でこっちを睨みやがってよ。」

 いい匂いのしたご婦人へ、やたら馴れ馴れしくしたからだろうが、と。そういう自覚もあったらしい、ナマズのようなヒゲをした亭主は、そのまま うんうんと何にか感慨深げに頷いて、

 「ありゃあホントの夫婦もんじゃねぇな。
  どっかの金満家のご夫人と、その護衛と侍女って顔触れに違いない。」

  何だよ、お前さん。そこまで見抜いたってかい?
  へへんだ、そんなもん物腰で判るってもんだろよ。

 「青のご婦人が一番落ち着いてたし、
  連れの娘は、飾り物こそ凝ってはいたが、片言なまり。
  若い兄さんは、身ごなしに隙がないその上、妙に尖ってやがったからな。」

 皆が皆、物見遊山ですってなのんびりした雰囲気じゃなかったから、あの夫人は本物ながら、残りの二人は傍づきだってのは丸判りよと。妙なことへ胸を張るナマズのご亭主であり。
「でもだったら、何か売りつけられもしただろに。」
 ウチは紛いものは置いてないのだ。どれもこれも一流の職人が手掛けた逸品ばかり…と言いかかり、
「……あ、まさかお前さんっ。」
「な、なななな何だよ。いきなり大きな声出して。」
「何だよじゃないよっ。」
 それは手の込んだ宝飾品を並べた台の上、ふと、気がついた貴鉱石のチャームを手にとって、

 「この辺のは一体いつ、博打の形代にと持ち出したんだい?」
 「あわわ…。」

 こっそりと、模造品に入れ替えられてた一角に気づいたらしきおかみさんが、ご亭主に牙を剥いての噛みついていた頃にはもう。件の一行、随分と離れたところを進んでおいでで、

 「ほんに賑やかなことvv」

 わくわくと嬉しそうなのは、何もあのご亭主が見抜いた主人格のご夫人だけではなくて。生なりの更紗を器用にもくるくるりと頭に巻いた青年も、時折、武具を並べている店に目が留まっては立ち止まり、後から来ていた侍女風のお付きの娘を背中にぶつけ、あわわと我に返っていたし。そんな二人を見やっては、街の雑踏より面白いと、嫋やかに微笑う女主人だったりもし。

 「あちらの人垣は何でしょう。」
 「さて。何やら楽曲が聞こえます。」

 よほどに慣れておれば別だが、そうでない身では流れに任せた行動しか出来ないほどの込み合いっぷり。何かしらの芸を見せる大道芸やら、艶やかな踊り子が舞いを披露する一団やらが、それぞれの贔屓を集めて賑わっており、覗いてみたいなぁと思っても、なかなか侭にはならない道行きで。ちょっとでも油断をすれば、

 「わっ。」

 とんと押されたその弾み、思わぬ路地へと押し込まれることもしばしばで。何もない、ただの家と家の隙間なら問題もないが、たまに、そのまま別な路地へと入り込んでしまいもすると厄介で。
「あらあら、どうしましたか。」
 小柄な連れが、急ぎ足の商人にとんと押されて雑踏から弾かれた。たたらを踏むようにしてそちらへ離れた彼女の様子へ、これは迷子になるやも知れぬと案じ。護衛役らしき若者と嫋やかなご夫人とがお顔を見合わせ、急いでその後を追ったところが。そこは微妙な品揃えの店が出ていた通りのようで。特に店を構えるでなし、すすけた段通を敷いた上へ座り込み、大きめの水パイプを据えてゆったりと煙草を味わっている、胡散臭いターバン姿の男がいたり。そんな露店商の隣では、きらめく真鍮のシンバルを打ち鳴らす楽師と息合わせ、あでやかな踊り子が妖冶な舞を披露していたり。
「…奥様、申し訳ありません。」
 うらぶれた印象のする路地の半ば。積まれてあった木箱にぶつかり、転ぶのは免れたものの、ぶつけた腕をさすっている彼女であり。人前で肌を見せる訳にはいかないが、アザが出来るほどぶつけたのかも知れず。

 「冷やした方がいい。」
 「でも…。」

 こんな出先で手当てもなかろと、大丈夫だと後込みする彼女へは、
「いけません。こういう手当ては早いほうが。」
 主人らしき夫人もまた、大きくかぶりを振って見せたので。多数決にて手当て組の勝ち。水売りを見つけましょうと元来た方へ戻りかかった三人へ。頭上の空の広ささえ狭まった、細い路地裏のその入り口を、素早く塞いだ人影が幾たりか。

 「おっと。入っただけで“はい さよなら”とはつれないねぇ。」

 馴れ馴れしくも声を掛けてきたのは、ろくに衣類もまとわぬ上半身を薄まった入れ墨で飾った若い男で。飾っているのか汚しているのか判りにくい代物なのは、資金が続かず輪郭だけしか彫れなかったからだと後に訊いたが、それはともかく。

 「そっちの姉さんの踊りを見たんだ、おアシを置いてきな。」

 とんだ言い掛かりだが、そうと言われれば見たこた見たには違いなく。しょうがないなと若い青年が懐ろまさぐり財布を出せば、それを横合いから取り上げたのが別の男で、

 「ひょー、結構持ってやがんぜ、この若様。」

 言うが早いか、巾着の口を開くと袋状の財布を引っ繰り返し、中にあった金貨銀貨を全部、足元の地面へと振り落とす。勿論、全部持ってけとは言ってなく、むっと眉を寄せた青年へ、

 「こりゃあ済まなんだな。
  だがな、こっちの姉さんは、
  ご城下じゃあ知らぬもんはない顔役のいい女でな。」

 そんなお人の有り難い舞いを見られたんだ、命冥利に尽きるってもんだと勝手なことを言う。いかにも怪しく、言い掛かりでしかない言いようを重ねる連中であり。連れの女性二人へこれ以上の侮蔑はならじと思うたか。

 「…。」

 目配せだけで彼女らを背後へ庇うと、腰に提げてた太刀へと手を掛け、目許を鋭く眇めた青年だったのへ、

 「おやおや、何だい。」
 「おっかないねぇ、そんなお顔して。」

 綺麗な別嬪さんだのに、それじゃあ たまなしだよと。もっともらしい言いようをした財布を奪った優男が、気安く手を伸ばして来たものだから、

  ―― ひゅっい、と

 細い細い路地を鋭い旋風が唸りを挙げて通り過ぎる。表通りのざわめきも遠く、そこを通った物音は、何であれくっきりと拾えてもしょうがないというものだけれど。大きなカナブンでも通って行ったような物音に、男らのやりとりをにやにやと笑って見ていた踊り子が、きゃあっと悲鳴を上げて飛びのいて。その弾みで壁にぶつかり、その場へしゃがみこんでしまったほど。

 「な…。」

 反りのない細身の太刀は、一体いつ抜かれたかも判らなかったほど素早く振るわれたようで。誰を何をと斬った訳ではないようだったが。そんな空振りの一閃が、形ある何かのように、そこに居合わせた顔触れを、それぞれの背後へ押しのけるほどの圧力孕んで飛んだのだから。

 「…ど、どんな手妻を使いやがった。」

 どう見たって10代そこそこのうら若き青年。剣の練達には若すぎる。よって、何かしら仕掛けのあることをしたに違いないと、さっきまでのへらへらとした余裕はどこへやら、空威張りからだろ凄んで見せる入れ墨男へ、

  す…っ、と

 しなやかな細腕を延べて見せ、その延長にある太刀の切っ先を相手の鼻先へと突き付ける。所作に無駄もなければ、鋼は重かろうに微塵も揺れぬところも物凄く。その先に待ち構えるお顔がまた…すっきりと整ったそのまま、なのに凄んで眇められた眼差しの、その視線だけで相手を喰い破れそうな鋭さの迫力は半端なく。

 「…………………つぎは、あてるぞ?」

 いや、斬るぞ? と。単調なお声での付け足しに、ひぇええぇぇっっと背条を震わせたのが何人か。あっと言う間の形勢逆転。空気も凍ったそんな路地にて、それでも相手もさすがは与太者。何とか隙見て逆転をと、姑息にも思った輩がいたようで。腕に覚えのあるのは若者一人。だったら連れを引きはがしたら、それを人質に出来ようぞと思うたか。あちこちに積まれた木箱や樽の物陰を渡り、そろりそろりと近づきつつあった、針金のように痩せた蚊トンボ男がいたものの。あとちょっとで、青いベールの夫人を捕らえんとしたその間合いへ、

 「…そのような卑怯はいかんなぁ。」

 不意を突くにも程がある声がして。片やは、与太者らの頭目らしき入れ墨男と向き合っていた青年を驚かせ、片やは…育ちのよさそうなご夫人の、二の腕掴みかけていた蚊トンボ男が、飛び上がったそのまま後ろ首をむんずと掴まれており。

 「そも、余計な騒ぎを起こさずに、
  この路地を守るのがお役目だったんじゃあなかったか。」
 「なっ、離せよっ、おっさんっ!」

 彼は仲間内ではなかったか。さっきまで水パイプをくゆらせていた壮年らしい大男が、頭からかぶっていた毛布のようなマントを振り落としつつ立ち上がれば、新たな敵かと焦ったのは与太者連中の方であり。

 「騒ぎはごめんだったのは、こっちも同じだったのだがの。
  どうやら鳧もついたようだし。」

 ふふと不敵に微笑った彼のその背後から、板を打ち付けられて見えた板戸が きいと軋みつつ内側から開いて、居合わせた人々からの注目を浴びる。そんな只中へ踏み出して来た人影があり、

 「蒸留酒の密売とは やはり大嘘だ。
  東方から追い立てられての、此処まで逃げ延びた盗賊一味らし…って。」

 ロープで縛り上げられた男を先杖に、追い立てるよにして出て来た声の主へ、太刀を構えたまんまの青年がきょとんとし、

 「……ひょうご、か?」

 そんな風に訊いたものだから。はい?と聞き返した、黒髪にカンドーラ姿の男性が、辺りをきょろきょろするうちにも。こちらの“青年”の注意は、早くも別なものへと移っており。蚊トンボのようとはいえ、それなりの年になってる男一人を。片手で軽々、足が宙へ浮くほどに引っ張り上げてたパイプの男。ふふと頼もしくも笑って見せるそんな彼へと、大きく見張った眸を向けていた旅姿の青年が…大きく肩口震わせて、吐き出すように口にしたのが、

 「ごろべえっ。」

 炯の国の最後の晩に、それぞれが…身を隠したり敵に運命攫われたりした末とはいえ、無事な姿を見ることのないまま、離れ離れになっていた、家人も同然の大事な腹心。髪を覆っていた更紗の砂防帽をかなぐり捨てて、今にも泣き出しそうなお顔になっているのは。護衛の若衆に身をやつしていた誰あろう、この国の覇王様の第三夫人こと、キュウゾウ妃、その人であり。案じていたその人が、なのに飄々と目の前へと現れたのへ。感極まっての息詰まらせていたけれど、我慢する理由もないと飛びつきかけた……そんな機先を制すよに。自分よりも速足で、脱兎のごとくに駆けてった人影があり。

 「〜〜〜〜ゴロベエさまっ!」
 「えっ。なんで姫が此処に?!」

 思わぬ出会いに感極まってた烈火の姫を、相変わらずのお転婆がと微笑ましげに待ち受けていたはずが、何でかどうしてか…追い抜いての飛びついて来たのが、やはり見覚えのある愛らしいご婦人であり。とはいえ、彼女はこの国の姫ではないはずだけれどと。事情が判らずどぎまぎする、頬に傷持つ大男であり。そんな二人の様子を、

 「……………????」

 何が何やらと、呆気に取られて見やった男装の麗人もどきのキュウゾウ妃が、………………はっとして何事かを思い出し。びしぃっと人差し指で指差した先にいた相手は、やはり付き人に身をやつしていたもう一人のご婦人だ。この自分を差し置いて、真っ先にパイプの男の首っ玉へと飛びついた理由は判らぬが、だがだが、ヒジャブを飛ばしたそのお顔には見覚えがあって、

 「お前はあのときの女官ではないかっっ!」

 いつぞやばったりと遭遇し、一体何者かと気になっていた見慣れぬ女官。何がシチのところの侍女だ、シノだと思えばこの嘘つきめと。微妙に怒っているらしき、実は女性だったらしい美丈夫の憤怒を前にして。

 「…(今のうちだぞ)」
 「……。(おお)」

 何がどうしたかは判らぬが、いきなり大もめの混乱中になっている人々の、せめて隙を付いて逃げようとしかけた与太者たちへは、

 「とんだお守りになるかと思えば、結構な“狩り”に付き合えたのかな?」

 いつの間に詰め掛けていたのやら。最初にお上りさん風の3人が飛び込んだ路地の入り口を埋め尽くして、覇王直属の警邏の親衛隊の一団が、それぞれに剣を構えて待ち受けており。そんな彼らの半ばほど、見通しのいい辺りに立ったまま、そちらの一部始終を眺めていたのが選りにもよって、

 「あらまあ、我が君ではありませぬか。」
 「シマダ?」
 「おお、カンベエ殿。」

 鋼色の豊かな髪を肩の後ろまでこぼしておいでの、それはそれは重厚精悍な偉丈夫こそは。知る人ぞ知る、この王国と広大な砂の大地を統べる覇王様。略式の軽いものながらも、太刀を装備の武装をまといし、現王カンベエ様であらっしゃり。双方共に、と言いますか、居合わせた全員がそれぞれなりの顔見知り同士という邂逅…には違いないのだけれど。そしてそうなら、何ら問題ないはずなのが、


 「さてはキュウゾウ、我らの企みを白状させられましたね?」
 「それより シチ、あの女は…っ!」
 「キュウゾウ、その恰好はなんだ。ヒジャブもかぶらずにはしたない。」
 「ゴロベエさんたら、わたしをどんなに心配させれば…っ!」


  み、みんな、一旦 落ち着かないか? ねっ? ねっ?
(大笑)







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  *何だかごちゃごちゃとした話になっちゃいましたね。
   でもでも、あの市場の雑踏と喧騒は何だか好きでしてvv
   きっと迷子になること請け合いだろけど、
   一度は行ってみたいなぁ…vv


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